この度、日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本癌学会の3学会合同ゲノム医療推進タスクフォース/ワーキンググループが、「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づく固形がん診療に関するブリーフィングレポート」を発表しました。
がん遺伝子パネル検査の12の課題とあるべき姿を示したレポート、癌関連3学会が発表:がんナビ
国内におけるがん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)は、2019年6月に保険適用が開始されて以来、現在5つの製品が利用可能となっており、先日、保険診療でのがん遺伝子パネル検査の登録患者数が10万例に到達したことをお知らせしたところです。
膵臓がん患者と家族の集い - 保険診療でのがん遺伝子パネル検査の登録患者数が10万例に到達
しかしながら、約6年間で10万例という数字は、決して十分とは言えません。レポートでも、この現状に至るまでの様々な課題が指摘されています。例えば、診療報酬の算定条件上、コンパニオン診断機能とプロファイル検査機能が別検査として扱われるため、高額な検査費用リスクを避けるためにプロファイル検査として実施せざるを得ないという点です。この場合、検査は標準治療終了後(終了見込みを含む)に限定され、エキスパートパネル(専門家による会議)も必須となることなどから、結果的に時間がかかり、本来の包括的な機能が十分に発揮されていないとされています。
膵臓がんにおいては、一次治療後にも使用されるオラパリブ(分子標的薬)にはBRCA診断薬(コンパニオン診断)があるため、大きな問題はありません。また、ペンプロリズマブ(免疫チェックポイント阻害薬)の適用可否を判断するMSI検査を1次治療中に行っておけば、その他の薬剤については、一般に標準治療終了見込みとなる2次治療移行時にプロファイル検査として実施する現状はやむを得ないと考えられます。
【治療選択に必要なバイオマーカーのリスト】biomarker.pdf ※ 膵臓がんについては別添画像も参照
さらにレポートでは、遺伝子パネル検査でコンパニオン診断の対象となるバリアント(DNAの塩基配列に生じる違い)が検出されても、エキスパートパネルによる解釈なしには患者へ結果を説明できないという制限が、結果返却や治療開始の遅れにつながっていると指摘しています。これに対し、レポートはエキスパートパネルを省略できる条件の検討を提言しており、将来的には主治医が薬剤の適応を判断できることが望ましいとしています。
膵臓がんでは、対象となる全ての薬剤について、エキスパートパネルの省略が可能とされています。なお、コンパニオン診断機能が承認されていないものの、実際には対象となるバリアントが診断可能な遺伝子パネル検査があります。レポートでは、分析性能等を考慮して、これらも含めてエキスパートパネルなしとすることが見込まれるとしています。
【エキスパートパネル省略可能なエビデンスレベルAのリスト】evidence_list.pdf
最近では理解が進んできていますが、いまだに遺伝子パネル検査を十分に理解・評価していない病院や医師の話を耳にすることがあります。膵臓がんにおいては、治療選択肢が少なく、進行が速いことから、適時適切に検査を行い、治療の可能性を最大限に高めることが重要であると考えます。
(2025.06.26)