令和8(2026)年1月8日から10日に米サンフランシスコ で開催されたAmerican Society of Clinical Oncology Annual Meeting 2026(ASCO 2026)において、膵臓がんに関わる各種研究結果が発表されました。ASCO(米国臨床腫瘍学会)は、米国癌学会 (AACR)、欧州腫瘍学会(ESMO)と並ぶ世界的な癌学会で、GIとは消化器がん(GI cancers)領域に特化した国際学会です。今回はその中から、6つの研究をご紹介します。
1. ゲムシタビン+nab-パクリタキセルへの抗PD-1抗体penpulimab+チロシンキナーゼ阻害薬anlotinibの上乗せ
未治療の転移性膵癌に抗PD-1抗体penpulimab+チロシンキナーゼ阻害薬anlotinibがゲムシタビン+nab-パクリタキセルへの上乗せで有望【ASCO GI 2026】:がんナビ
転移性すい臓がんに対して、免疫療法+分子標的薬+抗がん剤2種類を組み合わせた新しい治療が、これまでの標準治療よりも良い結果を示したというものです。標準治療であるゲムシタビン+nab-パクリタキセルに2剤を上乗せするので、副作用が心配されるところですが、有意に多く発生したのは発疹のみとのことで、今後に期待が持てます。
2. ゲムシタビン+nab-パクリタキセルへのGSK3β阻害薬elraglusibの上乗せ
未治療の転移を有する膵管腺癌にGSK3β阻害薬elraglusibがゲムシタビン+nab-パクリタキセルへの上乗せで有効な可能性【ASCO GI 2026】:がんナビ
転移性すい臓がんに対して、新しい薬elraglusib(エルラグルシブ)を標準治療(ゲムシタビン+nab-パクリタキセル)に追加すると、生存期間が延びる可能性が示されました。elraglusibは、がん細胞の増殖や免疫からの逃避に関わる酵素(GSK‑3β)を抑えることで、体の免疫ががんと戦いやすくなるよう設計された薬です。がんの進行を抑える期間はほぼ同じでしたが、1年後の生存率は標準治療の約2倍でした。一方で、視覚の異常や倦怠感、白血球減少などの副作用がやや増える傾向があり、今後の検証が期待されています。
3.DNA損傷応答遺伝子変異陽性の進行膵癌にデュルバルマブとオラパリブが奏効を示す可能性
DNA損傷応答遺伝子変異陽性の進行膵癌に1次・2次治療後の維持療法としてデュルバルマブとオラパリブが良好かつ持続的な奏効を示す可能性【ASCO GI 2026】:がんナビ
BRCAなどのDNA損傷応答(DDR)遺伝子に変異がある転移性すい臓がんで、白金系抗がん剤の治療で悪化しなかった患者を対象に、既に保険適用されている分子標的薬オラパリブに加えて免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブを組み合わせた維持療法を行ったところ、良好な結果が報告されたというものです。BRCA1/2変異を含むDDR遺伝子変異を持つ患者さんにとって、新たな選択肢となる可能性があります。一方で、貧血や腹痛などの副作用もみられるため、今後の検証が続けられています。
4.オリゴ転移のある膵管腺癌において転移巣に対する局所治療で予後が改善する可能性
オリゴ転移のある膵管腺癌において転移巣に対する局所治療で予後が改善する可能性【ASCO GI 2026】:がんナビ
オリゴ転移(転移が2臓器以内・5個以内)のある膵がん患者を対象に、転移に対する局所治療(手術・放射線・高周波アブレーション)を比較した研究で、特に高周波アブレーションがほかの治療よりも生存期間が長い傾向を示したことが報告されました。全体として、局所治療を行った患者さんの生存期間中央値は約3.4年と良好で、転移が少ない患者さんほど長く病状が安定する傾向がありました。まだ観察研究であり、治療法の選択に偏りがある点は課題ですが、オリゴ転移の膵がんでは局所治療が有望な選択肢になり得るという前向きな結果でした。
5.KRAS G12D変異のある進行膵管腺癌に新規経口KRAS G12D阻害薬INCB161734は安全で有望な効果
KRAS G12D変異のある進行膵管腺癌に新規経口KRAS G12D阻害薬INCB161734は安全で有望な効果【ASCO GI 2026】:がんナビ
膵がんではKRAS G12D変異が最も多く見られるのですが、この変異を狙い撃ちする新しい飲み薬 INCB161734 の初期試験で、安全に使えるうえに腫瘍が小さくなる効果(奏効率37%)や病勢を保つ効果(78%)が確認されました。さらに、この薬を標準治療の抗がん剤(ゲムシタビン+nab-パクリタキセル、またはmFOLFIRINOX)に追加しても副作用は許容範囲で、併用時の奏効率は最大50%とより高い効果が見られました。副作用は吐き気・下痢・疲労などが中心で多くは軽度で、今後の治療選択肢として期待されており、大規模な多施設・国際共同試験が今年から始まる予定です。
6.KRAS G12D変異陽性の転移を有する膵管腺癌に蛋白質分解誘導薬setidegrasibが有用な可能性
KRAS G12D変異陽性の転移を有する膵管腺癌に蛋白質分解誘導薬setidegrasibが有用な可能性【ASCO GI 2026】:がんナビ
KRAS G12D変異が多い膵がんを対象に、新しい薬 setidegrasib(ASP3082)を使った初期試験が行われ、単剤でも標準治療(mFOLFIRINOX)との併用でも、安全に使えるうえに腫瘍が小さくなる有望な効果が示されました。単剤では奏効率24%、併用では58%と高い効果が見られ、副作用として吐き気や倦怠感、下痢などがありましたが、多くは管理可能で重い副作用は少数でした。これらの結果を受け、setidegrasib+mFOLFIRINOXを1次治療として検証する大規模なフェーズ3試験が2026年に始まる予定で、今後の治療選択肢として期待が高まっています。
(2026.01.17)