令和7(2025)年7月2日から7月5日にスペイン・バルセロナで開催されたGastrointestinal Cancers Congress 2025(ESMO GI 2025)において、膵臓がんに関わる各種研究結果が発表されました。ESMO(欧州臨床腫瘍学会)は、米国癌学会 (AACR)、米国臨床腫瘍学会(ASCO)と並ぶ世界的な癌学会です。今回はその中から、特に注目すべき三つの研究をご紹介します。
1. TTFieldsと標準治療の併用でQOL悪化やオピオイド初回使用までの期間を延長
これまでも本サイトでご紹介してきた、切除不能な局所進行膵腺癌(ステージIII)患者に対する新しい治療法「TTFields(Tumor Treating Fields)」の動向について、新たな情報が入りました。
局所進行切除不能膵腺癌に対するTTFieldsとゲムシタビン+nab-パクリタキセルの併用はQOL悪化やオピオイド初回使用までの期間を延長する【ESMO GI 2025】:日経メディカル
【参考:前回情報】膵臓がん患者と家族の集い - ASCO 2025 米国臨床腫瘍学会 で発表された各種研究結果
今回のESMO GI 2025で発表された詳細な解析結果によると、以前お伝えした死亡リスクの低減に加え、QOLが悪化するまでの期間や、初回オピオイド使用に至るまでの期間をTTFieldsが有意に延長できることが新たに示されました。治療を継続する上でQOLの向上は非常に重要ですので、これは大いに期待が持てる結果です。
【参考:メーカー発表資料】ノボキュア、2025年ESMO消化器がん学会にて膵臓がんに対する腫瘍治療電場(TTフィールド)の第3相試験であるPANOVA-3試験の最終副次評価項目データを発表へ | ノボキュア株式会社
また、転移性膵癌(ステージIV)患者を対象とした臨床試験も並行して進められています。実用化はまだ先になりますが、こちらの開発動向についても引き続き注目していきたいと思います。
2. KRAS変異がない進行膵癌の1次治療でmFOLFIRINOXに抗CD47抗体magrolimabとニボルマブの併用が有用な可能性
KRAS変異がない進行膵癌の1次治療でmFOLFIRINOXに抗CD47抗体magrolimabとニボルマブの併用が有用な可能性【ESMO GI 2025】:がんナビ
遺伝子パネル検査で調べられる遺伝子変異のうち、膵臓がんでは多くの方にKRAS変異が見られますが、約5〜10%の患者にはKRAS変異が見つかりません(KRAS野生型)。
今回発表されたのは、進行膵がん(ステージIV)患者を対象とした臨床試験の結果です。この試験では、mFOLFIRINOX療法に抗CD47抗体「マグロリマブ(magrolimab)」、さらに免疫チェックポイント阻害薬「ニボルマブ(製品名:オプジーボ)」を併用しました。
一般的に副作用が強いとされるmFOLFIRINOXにニボルマブを併用して「忍容性(許容できる副作用)」が認められたというのは、正直驚きです。実際、2割近くの患者さんが投薬中止になるなど副作用は強めだったようですが、特にKRAS野生型患者においては、奏効割合70.0%、病勢コントロール率100%という非常に衝撃的な抗腫瘍効果が認められました。
今回の臨床試験はまだ第I相試験で、投薬を受けたのはわずか32人ですが、日本で行われた試験ということもあり、今後の進展に大きな期待を寄せています。
2. 進行膵管癌の1次治療でゲムシタビンとnab-パクリタキセルに加えて環状ペプチドcertepetideの投与が有効な可能性
今回、第II相試験において、標準治療であるゲムシタビンとnab-パクリタキセルに、新規の環状ペプチドであるcertepetide(サーテペチド)を加えることで、無増悪生存期間(PFS)と奏効割合の改善傾向が認められたと報告されました。
進行膵管癌の1次治療でゲムシタビンとnab-パクリタキセルに加えて環状ペプチドcertepetideの投与が有効な可能性【ESMO GI 2025】:日経メディカル
certepetideは、薬剤と共に投与することで、腫瘍と間質への薬剤透過性を向上させ、抗腫瘍効果を高めると考えられています。膵臓がんでは、がん細胞の周囲に存在する間質がバリアとなり、抗がん剤ががん細胞まで十分に届かないことが大きな課題でした。certepetideはこの課題を改善する効果が期待できるため、その開発成功を強く願っています。
(2025.07.10)