専門医の本音が示す「自由診療」の現実 ── 国立がん研究センター調査から見える課題
専門医の本音が示す「自由診療」の現実 ── 国立がん研究センター調査から見える課題
先日、毎日新聞は、がん診療に携わる専門医を対象にした国立がん研究センター(NCC)の調査結果について、「自由診療に対する専門医の評価と、患者に伝わる情報の間に大きなギャップがある」と報じました。
がん専門医7割「相談あった患者が自由診療へ」 否定評価伝わらず(毎日新聞) - Yahoo!ニュース
記事によれば、専門医の6割以上が患者から自由診療について相談を受けた経験があり、その多くが患者が実際に自由診療を提供する医療機関を受診したと考えているといいます。科学的根拠が不明確な高額自由診療が広がる中で、患者と医療者の間に生じる“情報のずれ”が浮き彫りになっています。
NCC が実施した調査では、専門医が自由診療をどのように評価し、患者にどのように説明しているのかなどが詳細に分析されています。
科学的エビデンスが不明な先端的医療を標榜する高額な自由診療に対するがん治療医の評価と患者コミュニケーション | がん対策研究所
多くの専門医は自由診療に否定的な見解を持ちながらも、患者の気持ちに配慮して強い否定を避ける傾向があり、その結果として患者が自由診療を過大に期待してしまう構造が生まれていることが示されました。
一方で、専門医自身がもしがんに罹患したと仮定した場合の回答を見ると、この問題の複雑さがより鮮明になります。標準治療が治療選択肢として残されている状況では、「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療を受ける」と答えた専門医は1.8%、「わからない」とした回答は4.7%にとどまりました。しかし、標準治療がもはや選択肢として残っていない状況を想定すると、前者は6.8%、後者は20.2%へと大きく増加します。毎日新聞記事では、これを「73・1%が否定した」と表記していますが、裏を返せば”専門医の4分の1”が否定しなかったという事実は重いと考えます。
自由診療に否定的な立場を持つ専門医であっても、自らが治療の選択肢を失った立場に置かれた場合には判断が揺らぎ得るという点は、患者が自由診療に惹かれる心理と重なる部分があり、この問題の根深さを示しています。実際、専門医であっても、自由診療の中には科学的根拠は乏しいものの、精神的苦痛の緩和を含めた一定の治療効果が期待できるものが含まれている可能性があると考えているのかもしれません。
NCC の研究は、自由診療の多くが科学的根拠に乏しいにもかかわらず、患者が希望を求めて情報に引き寄せられやすい構造を指摘しています。高額な費用負担や標準治療の機会を失うリスクがあるにもかかわらず、広告や体験談が“最後の望み”として映ることがあるためです。一方、医師は患者の気持ちを尊重しようとするあまり、強い否定を避ける傾向があり、結果として情報の非対称性が生じています。
今回の調査と研究結果は、患者が正確な情報に基づいて治療を選択できる環境づくりの重要性を改めて示しています。
自由診療を検討する際には、科学的根拠の有無、費用、リスク、標準治療との違い、そして専門医の見解を冷静に確認した上で、患者自身がその可能性と限界を適切に見極めて判断することが不可欠だと考えます。
(2026.02.15)