令和7(2025)年5月30日から6月3日にシカゴで開催されたAmerican Society of Clinical Oncology Annual Meeting 2025(ASCO 2025)において、膵臓がんに関わる各種研究結果が発表されました。ASCO(米国臨床腫瘍学会)は、米国癌学会 (AACR)、欧州腫瘍学会(ESMO)と並ぶ世界的な癌学会です。
【速報】がん治療に新たな光!膵臓がん治療と超早期再発診断の最前線
世界最大級のがん学会であるASCO(米国臨床腫瘍学会)2025では、がん治療の未来を拓く画期的な研究成果が多数発表されました。今回はその中から、特に注目すべき二つの研究をご紹介します。
1. 膵臓がんの予後改善に期待!「TTFields」と標準治療の併用で死亡リスク18%低減
切除不能局所進行膵腺癌の1次治療で交流電場を利用したTTFieldsとゲムシタビン、nab-パクリタキセルの併用は死亡のリスクを18%低減【ASCO 2025】:がんナビ
今回のASCO 2025で示されたのは、「切除不能な局所進行膵腺癌」の患者に対して、「TTFields(Tumor Treating Fields)」という新しい治療法と、既存の抗がん剤(ゲムシタビン、nab-パクリタキセル)を併用する治療法です。
TTFieldsは、がん細胞の増殖を妨げる微弱な電場をがん病変に当てることで効果を発揮する治療法です。この研究では、標準的な抗がん剤治療にTTFieldsを加えることで、患者さんの死亡リスクを18%も低減できることが明らかになりました。これは、膵臓がんの一次治療において、患者の生存期間を大きく改善する可能性を示す、非常に重要な成果と言えます。
なお、TTFieldsについては、以前も取り上げていますのでご参照ください。
膵臓がん患者と家族の集い - 腫瘍治療電場(TTフィールド)療法
2. がんの「超早期再発」を100%の感度で検出!日本人研究チームによる画期的な診断技術
WGSに基づく超高感度ctDNAパネルを幅広い癌種に対して高確率で作成成功し、ベースラインでは感度100%でMRDを検出、日本人研究チームが報告【ASCO 2025】:がんナビ
がん治療において、手術などでがんを取り除いた後に「再発」が起こらないかどうかの早期診断は極めて重要です。今回のASCO 2025では、日本の研究チームが開発した「WGS(全ゲノムシーケンス)に基づく超高感度ctDNA(血中循環腫瘍DNA)パネル」が大きな注目を集めました。
ctDNAとは、がん細胞から血液中に放出されるDNAのことで、これを検出することで体に微量に残ったがん細胞(MRD:微小残存病変)の有無を知ることができます。この新しい技術は、非常に高い確率で患者個々のがんの特徴に合わせたctDNA検出パネルを作成でき、治療開始前(ベースライン)の段階でMRDを100%の感度で検出することに成功したと報告されています。
これは、がんの再発兆候をこれまでにない精度で、しかも超早期に発見できる可能性を示しており、一般に再発リスクの高い膵臓がんにおいて、その中でも特にリスクの高い患者に対して早期に介入することで、治療成績のさらなる向上に貢献することが期待されます。日本人研究チームによるこの成果は、がんの個別化医療を大きく前進させるものとして、今後の臨床応用が待たれます。
(2025.06.04)